2004年9月28日更新
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美しい音を求める ~より良いマンドリン音楽の演奏を目指して
マンドリン奏者・教会音楽家 久松祥三
1.美しい音を求める 実力向上のためには、熱心に練習することはもちろん大切です。でもがむしゃらに楽器を弾く時間を増やすだけではあまり効果が上がりません。速いパッセージを弾くこと、大きな音量などは目立ちますが、人の心に訴えるような演奏は出来ません。まずは美しい音を心がけるべきです。マンドリン本来の弾く(はじく)音、その一つ一つを美しく響かすこと、それなくしては美しいトレモロはありえません。美しい音をだすためには右手のピックの持ち方、ピックの角度、腕の角度、手首の曲げ方、左手の角度、弦の押さえ方など、あらゆる面をチェックして下さい。 2.合奏に入る前の練習を大切にする 楽器の練習とは楽器を弾くことだけではありません。 楽譜をよく読み、表情のつけ方、フレージングなどを勉強します。繰り返しやダルセーニョなどを確認し、曲の流れをつかんでおくのは楽器を弾く前の最低限の準備です。またリズムを読む練習も有効です。楽譜を読んでリズムを口ずさむ、あるいは手で打ってみるなど、楽器を弾く前にやっておく練習です。さらに音階を口にして歌ってみるのもとても役立つ練習です。そのようなことをしているかどうかで演奏は変わってきます。また楽器を手にする時間が少ない人でも、以上のような練習であれば、さまざまな機会に練習できるはずです。 3. 良い指導者につく マンドリンはある程度独学でも弾けるようになります。ですが、本当に演奏技術の向上を目指すなら良い指導者につくべきでしょう。これは、他の楽器を学んでいる人には当然のことです。また「良い」指導者というのが大切です。マンドリンには音楽を学んだ指導者が少ないのは事実です。マンドリン以外の音楽を全く学んだことのない指導者、長い間アマチュアとしてマンドリンクラブで活動している人が指導者になっていることが多いです。残念ながら、それらの人々が指導する楽団の演奏は知識不足から来る誤った解釈による演奏に陥ることが多く、マンドリンの関係者には喜ばれても、一般の音楽愛好者たちには全く喜ばれない音楽となっているのが現実です。指導者にはなるべくマンドリンだけでなく音楽を広く学んだ音楽の専門家を選びましょう。指導者がマンドリンを弾ける人であるに越したことはありませんが、それよりも音楽に精通したプロに指導を受けることを優先すべきです。管弦楽団の指揮者がオーケストラの全ての楽器を弾けることはありえません。ピアニストから指揮者に抜擢された人もいます。指揮者が楽器の演奏技術よりも音楽解釈の力を必要とされていることを示す良い例といえましょう。 4. 良い楽譜を使用する 安易な編曲、出典のわからない楽譜などの使用は演奏の質を落とします。マンドリンの為に作られた曲は極力原典(またはそれに近いもの)を使用しましょう。日本で出まわっている楽譜の中には、編集者が必要以上に手を加えてしまって原典からかけ離れてしまっているものもあります。音の間違いの多い楽譜もあります。編曲作品を演奏する際には、できるだけオリジナルの楽譜を手に入れ、編曲と比較、確認を怠らないようにしましょう。編曲は編曲者の実力もその作品の質に大きく影響します。アマチュアが編曲したものと、プロの作曲家が編曲したものと、どちらが良いものができるか考えればおのずと答えはわかります。 5. 良い曲を選曲する 過去に先輩や他団体が演奏した曲の中から選ぶなどの狭い範囲での選曲を避けましょう。団体の規模、実力に見合う曲を選曲しましょう。マンドリンの為の作品が必ずしもマンドリン合奏に最適、その団体の演奏に最適とは限りません。むしろマンドリンにふさわしく編曲された質の高い作品は、良い演奏を生み出し、美しい音楽が団体を育てることにつながります。編曲作品は、原曲をプロの演奏で聴く機会も得られるでしょう。積極的に聴いて勉強しましょう。 6.演奏会の選曲、ステージ構成は、お客さまのことをよく考える アマチュア団体であっても、また無料のコンサートであっても、演奏会にお客さまを呼ぶ以上、基本的にはお客さまに喜んでもらえるような演奏、選曲を心がけるべきです。 マンドリンアンサンブルで、ロマン派等の交響管弦楽等を演奏して、お客さまが喜ぶでしょうか。自分達の編成に相応しい選曲をすべきです。 演奏の善し悪しは、演奏者の自己満足度で決まるのではありません。聴いたお客さまの評価が演奏の善し悪しを決めるのです。お客さまを本当に喜ばせることができる演奏こそが「上手な演奏」といえると思います。いわゆる「難曲」を数こなしたところで、一般のお客様に訴えるものは少なく、そのような演奏は自己満足にしかなりません。 音楽の分野も大切です。クラシック音楽主体の演奏会であれば、クラシック音楽で行う。ポピュラー音楽のコンサートはポピュラー音楽で楽しんでもらうほうがよいでしょう。なぜなら演奏会に来るお客さまは、好みの音楽を聴きたくて足を運ぶからです。定期演奏会等で、クラシックとポピュラーの両方をまぜた演奏会をよく見ますが、それを喜ぶお客さまがどれだけいるでしょうか。自分の好みでない音楽が半分も占めていたら演奏会を楽しめないと思います。それに、一つのステージにクラシックとポピュラーをまぜた演奏会は、大抵、ポピュラー音楽をおまけのような扱いにしています。これでは、ポピュラー音楽の愛好者にも喜んでもらえません。 マンドリンの関係者は、仲間内だけで通るような常識で音楽を演奏することがとても多く、そのためマンドリン関係者以外には受け入れられにくくなっています。広くクラシック音楽の愛好者に受け入れられる演奏を心がけるべきです。ギターやピアノ、ヴァイオリンの演奏会はその楽器を弾かない人も興味を持って聴きに来てくれるのに、マンドリンの演奏会には関係者以外が来ることはとても少ないです。それは、一般の音楽愛好者に理解力が無いのでは無く、マンドリンアンサンブルの演奏が音楽的で無いからです。まずは美しい音で演奏することを心がけてください。それが、音楽的な演奏へとつながり、マンドリン関係者以外にも受け入れられるものとなります。つねに美しい音を求める努力、それが始まりであり、最終目的だと思います。 |